医師や歯科医師の労務問題~医道審議会の行政処分と病院の懲戒処分について~
医師に対する指導としては、「集団指導」「集団的個別指導」があります。これらも、弁護士に相談をしながら、「個別指導」を受けることのないようにしなければならないと思います。
「集団指導」「集団的個別指導」と質的に異なり、医療機関の負担が重たいのが「個別指導」ではないかと思います。
個別指導では、監査に移行するなどの不利益を避けるため、早めに適切な準備をしておくのが良いと思います。
今回は医師や歯科医師に対する「個別指導」について、弁護士が解説します。「集団指導」や「集団的個別指導」を受けて不安になっている方は、ぜひ参考にしてみてください。
1.「個別指導」の負担が重い理由
「個別指導」では,指導が終結しても、「監査」に移行する可能性もありますし、指摘を受けた項目については、診療報酬を「5年分」自主返還することが求められます。
場合によっては,監査に移行し、「保険医療機関の指定」が取り消される可能性もあります。保険医療機関の指定が取り消されると、病院としての維持・存続は難しくなるといえます。
また、診療報酬の「5年分」の返還も、病院に対する財政的負担が重いといえるでしょう。
2.個別指導の内容等について
「個別指導」といっても、「都道府県個別指導」「共同指導」「特定共同指導」があります。
このうち、「個別指導」は、原則として病院は、病院内において、診療所及び薬局は、地方厚生局の事務所及び会議室で行われます。
つまり、病院に対する指導は、技官や事務官が病院にやってきて、診療所と薬局は指定された場所に出向いて行うことになります。
原則として、指導月以前の連続した2か月分のレセプトに基づき、関係書類等を閲覧し、面接懇談方式により行われます。
指導対象となるレセプトは、30人分です。指導時間は、原則として診療所や薬局は2時間、病院は3時間程度が目安とされています。
個別指導は、行政指導であるので、本来、行政手続法に基づいて行われる必要があります。
しかしながら、新規個別指導は、不利益処分への結びつきが強いにもかかわらず、「指導大綱」や「指導大綱における保険医療機関などに対する指導の取扱いについて」には記載がありません。
こうして、法的根拠が乏しいにもかかわらず、事実上、診療機関等に対する新規個別指導は強制されているといえるかもしれません。
この不透明さについては、日弁連も、平成26年8月22日、「健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書」に記載しており、不透明である旨を指摘しています。
3.「新規」個別指導と個別指導の間には違いがあるでしょうか?
新規個別指導と個別指導との間には、違うところがあります。
双方とも、原則として、指導月以前に連続した2カ月のレセプトに基づき、関係書類を閲覧し、面接懇談方式により行われるのは同じです。
ところが、指導対象となるレセプトの件数が「新規個別指導」の方が10名分程度、病院は20人分程度と少ない点がポイントです。また,指導時間も原則として、診療所及び薬局は1時間、病院は1時間と少なめの目安になっています。
こういう点からは,「新規個別指導」の方が手続的負担は軽いと言えるでしょう。
重要な違いは自主返還です。「個別指導」の財政的過酷さに,5年間分の「自主返還」があると述べました。
この点,個別指導についていえば、返還事項に係る全患者の指導月前1年分のレセプトについて自主返還が求められますし、施設基準の返還の場合は5年とされています。
ところが、「新規個別指導」では、指導対象となったレセプトについてのみ自主返還をすれば足りるものとされています。
4.個別指導の終了時に気を付けるポイント
個別指導終了後、指導担当者は講評をすることになります。その後の監査や再度の個別指導などの参考になりますので、記録しておきましょう。
個別指導では,口頭で指導結果を説明し、後日、指導結果を文章で通知されることになっています。
指導結果は、「概ね妥当」「経過観察」「再指導」「要監査」があります。
そのうえで、「自主返還」を求められるのです。
自主返還と聴くと、自主的なものであるのか、事実上強制的であるのか、と思ってしまいます。
この点、「医療指導監査業務等実施要領」に「保険医療機関等に自主点検を行わせ、返還同意書等必要な書類の提出を求める」と記載されており事実上強制です。もっとも、計算する金額は医療機関が計算するので、「自主返還」といわれています。
5.個別指導の対象とされる医師ってどういうパターンが多い?
個別指導の対象になってしまう医師にも、一定のパターンがあるといわれています。
個別指導の対象とされやすいのは,
- レセプトの平均点数が高いパターン
です。
したがって、自分の病院のレセプトの平均点数を把握しておくことが重要といえるでしょう。
- 都道府県のレセプトの平均点数に対して,概ね1.2倍のパターン
- 概ね上位8パーセントの病院に入ってしまったパターン
上記のいずれにも該当してしまうと,「個別指導」の対象となりやすいといえるでしょう。
レセプトの平均点は、各都道府県の保険医協会や地方厚生局のウェブサイトから調べることもできます。一度、チェックしてみてください。
上記のパターンから分かるように、「個別指導」の対象にならないように意識するためには、自分の病院のレセプトの平均点数が,都道府県の平均点数の1.2倍を超えないようにすることがポイントといえそうです。若手の医師は、このポイントを軽く考えている方もいるようです。
例えば,若い勤務医を分院の管理者にしてしまった場合にありがちなのは、若い勤務医が1.2倍の目安を知らずに、高得点を請求し続けた結果、まずは集団的個別指導、次いで個別指導となってしまうパターンが典型例といえます。
ドクターだから、基準点数ことを知っているはずとは思い込まず、個別指導になると負担になることも踏まえて、経営側できちんと説明する機会を設けるべきです。
特に、分院の収入が増えて喜んでいたところで、個別指導が入るのが一つのパターンとも思われます。
なお、これは、集団的個別指導にあたると個別指導を受けやすいという観点から説明しており、平均点以下でも、収入が高い場合は個別指導に入られる可能性はないとはいえません。
6.名古屋駅ヒラソル法律事務所は医師、歯科医師をバックアップします
名古屋駅ヒラソル法律事務所では、医師や歯科医師など医療関係者への法的支援に力を入れております。通常の労働関係における懲戒処分だけでなく、個別指導や医道審議会における行政処分手続きについても詳しい知識と対応スキルをもっているため、いざというときに頼りにしていただけるでしょう。残業代請求や解雇などのトラブルにも対処可能です。名古屋や東海地方で個別指導などで不安なお気持ちになっている医師や歯科医師の方がおられましたら、お早めにご相談ください。