院内ハラスメント(パワハラ・セクハラ)を受けている場合の対処方法

看護師や理学療法士,技師などの医療関係者の方から,院内でのパワハラやセクハラのご相談を受ける機会がよくあります。医療関係者の方の場合,患者との関係だけではなく,例えば,病院では,病院内で起こった事故,病院と看護師等との労使関係(パワハラやセクハラを含む。)などの法的問題があるのです。

ハラスメント被害を受けているなら,我慢する必要はありません。法律上もパワハラやセクハラは禁止されるので,やめさせるべきです。場合によっては加害者や病院へ慰謝料を請求できる可能性もあります。

今回は「院内ハラスメント」としてパワハラやセクハラになるのはどういったケースなのか,また被害を受けたときの対処方法を弁護士がお伝えします。

ハラスメント被害で日々の業務に支障が出てお困りの方はぜひ参考にしてみてください。

1.パワーハラスメントとは

そもそもパワーハラスメントとはどういった行為を指すのか,みてみましょう。
なおパワーハラスメントは略して「パワハラ」とよばれるケースが多いので,この記事でも基本的に「パワハラ」と表記します。

1-1.パワハラの定義

職場でのパワーハラスメントとは,職場において行われる優越的な関係を背景とした言動で,業務上必要かつ相当な範囲を超えており,労働者の就業環境が害される行為をいいます。

要件をまとめると,以下の3つの要素を含む行為がパワハラとなります。

  • 職務上の地位や優位性を利用している
  • 業務の適正な範囲を超えている
  • 労働者へ身体的・精神的苦痛を与えたり,職場環境を害したりする

上司や部下に対し,暴行を振るったり精神的な攻撃を加えたりする場合が典型です。
ただし上司部下の関係以外でも何らかの「優位性」があればパワハラとなります。
同僚同士でパワハラが成立する可能性もありますし,部下から上司へのパワハラもありえます。

たとえば看護師の場合,医師や師長から業務上相当な範囲を超えて嫌がらせのような指示を受けたり侮辱を受けたりしたら,パワハラに該当する可能性が高いでしょう。

1-2.パワハラの6類型

パワハラには,以下の6つの類型があります。

身体的攻撃

直接的に相手の身体を攻撃するパワハラ行為です。
たとえば殴る,蹴る,胸ぐらをつかむ,大声で怒鳴りつける行為などが該当します。

精神的攻撃

暴言をはいたり侮辱したり名誉毀損的な発言をしたりして,精神的に追い込む行為です。

人間関係からの切り離し

チームではたらく場合に1人だけ仲間はずれにする,情報を与えない,仕事を教えないなど,人間関係から切り離して労働者を孤立させる行為です。

過大な要求

到底こなせないような過大な仕事の要求もパワハラ行為となります。
たとえば翌朝までにできるはずのない量や質の仕事を依頼して相手を困らせる場合などです。

過少な要求

反対に,本人に仕事をしたい気持ちがあるにもかかわらず仕事を与えなかったり必要性の低い単純作業などを命じたりすると「過小な要求」としてパワハラ行為となる可能性があります。

たとえば看護師や理学療法士,技師などの資格のある人に対し,必要性もないのにことさらに受付業務のみ行わせる場合などが該当するでしょう。

個の侵害

労働者のプライバシーや私生活に立ち入る行為です。
たとえば上司が部下へプライベートな内容や結婚,出産などについて尋ねたり,労働者が嫌がっているのに個人的に使っているSNSで連絡をとろうとしたりすると個の侵害となる可能性があります。

2.セクシャルハラスメントとは

院内では,パワハラ以外に「セクシャルハラスメント(セクハラ)」が行われるケースも多々あります。
厚生労働省の定義によると「職場におけるセクシュアルハラスメント」とは,職場において行われる,労働者の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり,「性的な言動」により就業環境が害されたりすることとされています。

要件をまとめると以下のようになるでしょう。

  • 職場において行われる行為
  • 労働者の意に反する性的な言動がある
  • 労働者が拒否した場合に労働条件について不利益を課する(対価型)
  • 性的な言動によって労働者の就業環境が害される(環境型)

男性の女性に対する行為だけではなく,女性が男性にセクシャルハラスメントを行う場合もあります。

セクシャルハラスメントは略して「セクハラ」とよばれるケースが多いので,この記事でも基本的にセクハラと表記します。

2-1.対価型セクハラと環境型セクハラ

セクハラには「対価型」と「環境型」の2種類があります。

対価型セクハラとは

労働者に対して性的な言動を行い,労働者が拒否したときに労働条件を悪化させるなどの不利益を課すものです。

たとえば病院経営者の医師が勤務看護師をホテルに誘ったけれども看護師が断ったとき,その看護師を解雇する場合などが該当します。

環境型セクハラとは

環境型セクハラとは,労働者の意に反する性的な言動により就業環境が不快なものとなったため,仕事に悪影響が生じる場合です。

以下のような例が環境型セクハラに該当します。

  • 院内で上司が部下の腰,胸などに度々触ったため,労働者が苦痛に感じて就業意欲が低下してしまった
  • 女性医療者が抗議しているにもかかわらず,同僚が業務に使用するパソコンでアダルトサイトを閲覧しているため,女性医療者が苦痛に感じて業務に専念できない状態になっている

2-2.マタニティハラスメント(マタハラ)について

最近ではパワハラやセクハラの範疇におさまらないハラスメント被害も増えています。
たとえば出産や子育てに関する「マタニティハラスメント(マタハラ)」とは,妊娠したときに嫌がらせを受けたり産前産後休暇や育児休暇をとろうとしたときに行われたりする嫌がらせです。
結婚したときに嫌がらせをされる「マリッジハラスメント(マリハラ)」などもあります。

女性だけではなく男性が上記のようなハラスメント被害を受けるケースも多いので,「セクハラやマタハラは女性しか被害者にならない」という思い込みは捨てましょう。

このほか,看護師などは,患者さんから暴力・ハラスメントを受けることもあります。この場合は,患者さんの行為だからと思わず,医療機関の安全配慮義務を指摘するということも考えられるでしょう。
すなわち,医療機関は,労働者の生命,身体などを危険から保護するように配慮する義務(安全配慮義務)を負っており,これらの暴力・ハラスメントへの対応は急務といえます。安全配慮義務について,東京地裁平成25年2月19日は次のように判示しています。

●X病棟においては,看護師がせん妄状態,認知症等により不穏な状態にある入院患者から暴行を受けることはごく日常的な事態であり,病院は,看護師が患者からこのような暴行を受け,傷害を負うことを予見できた。
したがって,病院としては,そのような不穏な患者による暴力行為があり得ることを前提に,看護師全員に対し,ナースコールがなった際,(患者が看護師を呼んでいることのみを想定するのではなく)看護師が患者から暴力を受けている可能性があることをも念頭に置き,自己が担当する部屋からのナースコールでなかったとしても,直ちに応援に駆け付けることを周知徹底すべき周知義務を負っていたというべきである。
患者さんによるハラスメントは,個人ではなく,組織として対応し,必要に応じて法的措置をとることなどが重要といえます。

3.院内ハラスメント被害に対する対処法

もしも院内でハラスメント被害を受けたら,以下のように対応しましょう。

3-1.院内の相談窓口を利用する

まずは院内の相談窓口へ相談してみましょう。
大きな病院であれば,パワハラやセクハラなどのハラスメント被害について,相談できる窓口がもうけられているケースがよくあります。
そうした窓口へ通報すると,プライバシーへ配慮して事実確認を行い,問題を解決してもらえる可能性もあります。
1人で抱え込んでいても精神的に追い詰められてしまうので,まずは相談できる場所を頼ってください。

3-2.総合労働相談コーナー(都道府県の労働局)へ相談する

院内に適切な相談先がない場合や院内窓口に相談しにくい場合には,都道府県の労働局へ相談しましょう。労働局の相談窓口は「総合労働相談コーナー」とよばれるケースもあります。
解雇や配置転換,減給などの労働条件変更,ハラスメント被害など幅広く受け付けていて,電話でも相談できます。利用料金もかからないので,気軽にアクセスしてみてください。
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html

3-3.都道府県労働委員会・都道府県庁

各都道府県の労働委員会では,労働トラブルの「個別あっせん」という手続きを利用できます。
個別あっせんとは,労働委員会が雇用者と労働者の間に入り,解決のサポートをしてくれるサービスです。
都道府県庁でも個別あっせんをしてくれるケースがあるので,まずは1度お住まいの自治体へ確認してみてください。
https://www.mhlw.go.jp/churoi/assen/index.html

3-4.ハラスメントの証拠を集める

ハラスメント被害に対応するには「証拠」が必要です。
証拠がなかったら,パワハラやセクハラを受けているといっても信用してもらえない可能性がありますし,訴訟になった場合にも負けてしまうでしょう。

以下のようなものが証拠として有効です。

  • パワハラやセクハラ行為がわかるメールやLINE
  • 相手のパワハラやセクハラ発言に関する録音記録
  • パワハラやセクハラについて詳しく書いた日記
  • 同僚などの第三者による証言
  • うつ病,抑うつ症状などの診断書

3-5.未払い賃金や慰謝料請求する

セクハラを拒否したことによって解雇されると,一般的には不当解雇となります。その場合,解雇無効を主張し,解雇後の未払賃金を請求できる可能性があります。
またパワハラやセクハラ行為が悪質な場合,慰謝料も請求できます。
直接の加害者だけではなく病院に責任が生じるケースも多いので,適切な相手を法的に選択のうえ賠償金を請求しましょう。

未払賃金や慰謝料を請求する手順

一般的には内容証明郵便で慰謝料などの請求書を作成し,加害者や病院へ送付するケースが多数です。その後,話し合いをして示談が成立すれば,未払い賃金や慰謝料を払ってもらえます。

3-6.弁護士に相談する

パワハラやセクハラ被害を受けたとき,1人で対応できることには限界があります。
病院に対して慰謝料請求をしても,無視されたり適当にごまかされたりするケースも多いでしょう。
院内ハラスメント被害に対応するには,医療関係者のサポートへ取り組む弁護士に依頼するのが得策です。
弁護士に任せれば,弁護士が病院や加害者とやり取りするので自分で直接話し合う必要がありません。労力も関わらずストレスも大きく軽減されるでしょう。
有利に交渉を進めて高額な賠償金受け取れる可能性も高まりますし,示談が決裂したら労働審判や訴訟による責任追及もできます。

名古屋駅ヒラソル法律事務所では,医療関係者の労働問題に力を入れて取り組んでいます。
名古屋や東海地方で院内パワハラやセクハラ被害を受けてお困りの医療関係者の方がおられましたら,お気軽にご相談ください。

名古屋市の弁護士による医療従事者の労働問題と
医道審議会・行政処分サポート

60分無料相談をご利用ください!!

依頼者様の想いを受け止め、全力で取り組み問題解決へ導きます。

平日の夜間や土曜日も、依頼者様のご都合に合わせて即日相談可能です。

60分無料相談申込お問い合わせ

ページの先頭へ