刑事事件と医道審議会の関係と留意点

医師や歯科医師,看護師や薬剤師などの医療職の方々が刑事事件を起こすと「医道審議会」で審議にかけられ,さまざまな行政処分を受ける可能性があります。

業務停止や取消処分,名称利用停止などの処分を受けてしまったら,仕事を続けられなくなって大変な不利益を受けてしまうでしょう。

具体的にどういった刑事事件を起こしたら処分を受けてしまうのか,行政処分が行われるまでの医道審査会における手続きの流れなども把握しておきましょう。

今回は医療職の行政処分への対応に積極的に取り組んでいる弁護士が,刑事事件と医道審議会の関係や対処方法を解説します。

刑事事件を起こしてお困りの医療職の方々はぜひ参考にしてみてください。

1.医療職に対する行政処分とは

医師や歯科医師,獣医師や理学療法士,作業療法士,看護師や薬剤師などの医療職の方は,行政による監督を受けます。そもそも国家試験に合格しなければこういった職業ができず,資格も国によって管理されているのです。
違法,不当な行為をすると,行政からペナルティを与えられてしまいます。それが「行政処分」です。

重大な違法行為が発覚したら,業務停止や名称利用の停止,資格の取消処分を受ける可能性もあるので,くれぐれも問題行動をとらないように注意しなければなりません。

行政処分の種類

医療職の方に対する行政処分には以下のようなものがあります。

戒告

厳重注意をする処分です。軽い行政処分であり,仕事についてはそのまま継続できます。

業務停止

一定期間,資格を使った仕事を禁止される処分です。たとえば業務停止3か月,業務停止1年などと定められます。停止期間中は医師や看護師などとしてはたらくことが一切許されません。

名称利用停止

理学療法士や作業療法士の方が違法,不正な行為をすると,一定期間,理学療法士や作業療法士の名称を使って仕事ができなくなってしまいます。

取消処分

医療職の資格を取り消される処分です。いったん取消処分を受けると再取得が認められるまで医師や看護師などの仕事をできなくなってしまいます。
欠格期間ももうけられ,もっとも重い行政処分となっています。

2.医療職が刑事事件で行政処分を受けるケース

医師や歯科医師,看護師や薬剤師などの医療職が刑事事件を起こして行政処分を受けるのは「罰金以上の刑に処せられた場合」です。
罰金以上に該当するのは,以下の刑罰です。

2-1.罰金

1万円以上の金銭を支払う刑罰です。9999円以下であれば「科料」というより軽い刑罰となり,行政処分の対象にはなりません。

2-2.禁錮

強制労働をともなわない身柄拘束の刑罰です。日数は30日以上となります。
強制労働をともなわない身柄拘束が29日以下の場合「拘留」という軽い刑罰になります。

2-3.懲役

懲役刑は,強制労働をともなう身柄拘束の刑罰です。日数は30日以上となります。

2-4.死刑

死をもって罪を償う刑罰であり,数ある刑罰の中でももっとも重いものです。

科料と拘留の場合には罰金より軽くなるので,行政処分の対象になりません。

3.医療職が特に注意すべき犯罪

医療職の方が行政処分を受けてしまいやすい「特に注意すべき犯罪」を把握しておきましょう。

3-1.交通事故,交通違反

交通事故は,車を運転する方なら誰でも巻き込まれる可能性があります。
自分は注意していても,飛び出してきた歩行者や自転車などをはねてしまうケースもあるでしょう。
通常の過失によって交通事故を起こしたら「過失運転致死傷罪」が成立して自由刑や罰金刑が適用される可能性もあります。

またスピード違反や飲酒運転など交通違反をしたときにも罰金などの刑罰適用対象となります。

医療職の方は,くれぐれも交通違反や交通事故に巻き込まれないよう慎重に運転しましょう。

3-2.性犯罪

性犯罪によって行政処分を受ける医師や薬剤師の方も少なくありません。
たとえば公共交通機関などにおける痴漢,盗撮,セクハラによる強制わいせつなどによって業務停止となる可能性もあるので,こういった行動をとらないよう十分注意して生活してください。

3-3.暴行や傷害

カッとなって相手を殴ってしまった,酔った勢いで暴行を振るってしまったなど,暴行や傷害罪で行政処分の対象となるケースもみられます。
資格への影響を避けるため,節度を守った行動をとりましょう。

3-4.窃盗

横領や窃盗などの財産犯によって行政処分を受けてしまう方もおられます。
勤務先の医療品やお金などの横領をしてしまわないように注意しましょう。

3-5.保険診療報酬の不正請求

保険診療報酬の不正請求にもとづく行政処分も多数みられます。こういった行動は医療職にあるまじき行為として厳しく処分されるリスクが高いので,絶対にしてはなりません。

4.医道審議会の手続の流れ

医師や歯科医師,薬剤師などの医療職の方に罰金以上の刑が確定すると,「医道審議会」が具体的な行政処分の内容を決定します。

4-1.行政処分までの手続きの流れ

以下で医道審議会における手続きの流れを簡単にみてみましょう。

  1. 刑事事件で罰金以上の刑罰が確定する
  2. 法務省が厚生労働省へ刑罰について情報提供する
  3. 都道府県の担当課から医療者本人へ事案の報告依頼が来る
  4. 報告を受けて,都道府県が厚生労働省へ事案内容を報告する
  5. 医道審議会が報告や事案の内容を審議し,行政処分の内容(戒告とするか業務停止とするか取消処分とするか)を決める
  6. 都道府県の担当課が医療者本人へ意見の聴取や弁明の聴取を実施する
  7. 都道府県が厚生労働省へ結果を報告する
  8. 医道審議会が答申内容を決定する
  9. 厚生労働大臣により,業務停止などの行政処分が行われる

ご本人が対応しなければならないのは,上記のうち「都道府県の担当課から事案の報告依頼」があったときと「都道府県の担当課による本人の意見の聴取や弁明の聴取」の段階です。

4-2.事案の報告依頼とは

刑事事件で罰金以上の判決が確定すると,都道府県の担当課から処分対象予定者へ「事案の照会書」が送られます。
照会書には通常,対象者の氏名や住所,医籍登録番号や略歴,事件の概要,事件当時の就業先,事件後の状況や被害者への補償状況などが書かれています。

事案の報告依頼を受けたら,1週間程度で報告をあげなければなりません。
受け取ってから慌てて準備しても間に合わないリスクが高いので,罰金以上の刑罰が適用される犯罪をしてしまった時点で弁護士に相談し,事前に行政処分に対する準備を開始しましょう。

4-3.意見の聴取,弁明の聴取とは

医道審議会において「免許取消相当」とされると「意見の聴取」が実施されます。
「業務停止命令相当」とされた場合には,弁明の聴取が行われます
どちらも本人の言い分を聞くために行われる手続きです。

意見の聴取や弁明の聴取において自分の意見や事情をしっかり説明できないと,結果に反映されず不利益を受ける可能性が高まります。

適正に対処するため,弁護士を代理人に立てるようおすすめします。

4-4.意見の聴取や弁明の聴取で聞かれること

意見の聴取や弁明の聴取では,問題の犯罪行為を認めるのかどうかや,認めるなら動機,内容についての詳細,今後どういったことに注意して生活するのか,どう考えているのかなどについて聞かれるのが一般的です。

都道府県によっては事前に質問に内容が通知されるケースもありますが,告げられない都道府県もありケースバイケースです。

5.医道審議会で行政処分を避ける方法

5-1.不起訴処分を獲得する

医道審議会で業務停止や免許取消しなどの行政処分を避けるため,まずは刑事事件で「不起訴」を目指しましょう。
不起訴とは,検察官が「刑事裁判を起こさない」とする決定です。そもそも刑事事件にならないので刑罰を受ける可能性が0%になります。

被害者のいる事件では,早急に示談を成立させると不起訴にしてもらえる可能性が高まります。刑事事件になったら,早めに弁護士に依頼して示談交渉を始めましょう。
冤罪(えん罪 実際には犯罪をしていないのに嫌疑をかけられること)で逮捕されたなら,冤罪であることを説明して不起訴や無罪判決を目指すべきです。
冤罪の立証は極めて難しいので,やはり早期に弁護士のサポートを受けましょう。

5-2.医道審議会を意識した活動を行う

不起訴処分にならなかった場合でも,行政処分を避けられる可能性はあります。後日に開かれる医道審議会を意識しながら刑事弁護活動をすれば,不利益を避けやすくなるでしょう。
そのためには,医道審議会の特性を把握している弁護士に依頼する必要があります。

6.医道審議会の処分報告について

医道審議会で行政処分が行われたときに勤務先の病院へ報告されてしまうのでしょうか?

都道府県によっても運用が異なる可能性がありますが,報告されないケースがないわけではないようです。
ただし免許取消しや医業停止処分になると実名でニュース報道の可能性があり,結局は知られてしまう可能性があります。また報告や報道されなかったとしても,結局仕事を続けられなくなるでしょう。

7.弁護士に相談,依頼する必要性

医道審議会の各過程では,代理人をつけることができます。
なるべく有利な結論を得るため,弁護士によるサポートを受けましょう。
自分で対応すると弁明の機会をうまく利用できず,不利な結論が出てしまうリスクが高まります。

また医道審議会の審議に対応している弁護士は少数です。経験のない弁護士に依頼しても効果的な活動を期待しにくいので,医療職の弁護に積極的に取り組んでいる弁護士を選びましょう。

弁護士に対応を依頼すると,自分で対応する労力や時間を省けるうえ,精神的なストレスも大きく軽減されます。業務停止期間が数か月短くなったり資格の取消処分を避けられたりする可能性も上がり,経済的なコストとしても十分見合います。

名古屋駅ヒラソル法律事務所では医療者の刑事事件や医道審議会対策に力を入れていますので,お困りの医師,歯科医師などの方はお早めにご相談ください。

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