Q5.保険医療機関指定の取消の仕組みはどうなっていますか

例えば,不正請求は、事務手続の単純ミスや誤解,手違い、すなわち意図せずに過失により行われてしまうことも多いといえます。しかし、歯科医師が事務手続きの単純ミスや誤解、手続によるものであると主張しても、不正請求に分類される不適切な請求の件数が多い場合は、意図的に故意に不正請求をしていたと事実認定してくるケースがあります。

  • 架空請求
  • 付増請求
  • 振替請求
  • 二重請求
  • 重複請求
  • 無資格者の診療行為についての保険請求
  • 業務上の傷病について保険請求した場合
  • 健康診断を保険請求した場合
  • 自己診療を保険診療として請求した場合

1.取り消し処分の判断基準とその効果

不正請求をすると、必ずしも取消処分になるわけではありません。厚生労働省保険局医療課医療指導監査室の「医療指導監査業務等実施要領(監査編)平成26年3月」によれば、行政処分の判断基準が示されています。

取消

  1. 故意に不正又は不当な診療を行ったもの
  2. 故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの
  3. 重大な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの
  4. 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの

戒告

  1. 重大な過失により、不正又は不当な診療を行ったもの
  2. 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの
  3. 軽微な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの
  4. 軽微な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの

注意

  1. 軽微な過失により、不正又は不当な診療を行ったもの
  2. 軽微な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの

取消処分の判断基準としては、不正又は不当な請求の態様、回数、頻度などから、総合的に取消しにするか、戒告にするか、注意にするか、判断をしているということになります。ただし、公平性の見地から、過去の類似の事例との比較検討の上で最終的な処分を判断しています。

監査が実施された保険医療機関については、処分なしの実例は少ないかと思います。そこで、「取消」「戒告」「注意」の3種類の処分があるのです。

処分の効果

取消しについては、原則として、5年間、保険医療機関等の指定が受けられなくなります。また、厚生局のホームページで取消処分が実名で公表されます。

戒告と注意については、公表はされませんが、保険診療が継続することができます。しかし、戒告や注意を受けると、しばらくして個別指導の対象に選定されることになります。
なお、保険医療機関の指定の辞退等をした医療機関等については、「取消相当」という取扱いがされることになり、原則として5年間、保険医療機関等の指定等が受けられなくなるのです。また、厚生局のホームページで、取消相当が実名で公表されます。

2.監査後の返還金って何?

「監査後の返還金」とは何かが問題となります。取消し、戒告、注意のいずれの処分としても、監査で確認された不正請求・不当請求により、保険医療機関に支払われた金額については、保険者と患者さんへの返還が求められます。

返還の対象期間としては、原則として、監査の開始日の前月から5年前以降の分お5年間分となります。

なお、不正請求の診療報酬の返還については、保険者は、加算金40パーセントを支払わせることもできます。

このほか、監査で確認されなかった不正・不当請求分については、個別指導の場合と同じく、自己点検をして、不正・不当請求について自己点検が求められることになります。
なお、個別指導の場合は原則1年間ですが、監査の場合は、返還期間は原則5年間となっています。つまり、監査で確認されていなくても、原則5年間の自己点検、自己申告が求められることになるのです。
情報提供元は教えてもらえません。したがって、情報提供元がはっきりするのは半分もないという状況です。実は、患者さんからの情報提供による個別指導ということもあり得ます。
もっとも、情報提供が1~2件あったくらいでは、厚生局は動かず、個別指導の実施には至らないケースもあります。やはり、情報提供が複数ある、不正を裏付ける確固たる証拠がある、歯科医院が高得点である、などの事情を総合勘案して、「個別指導」の対象を選定しているものと考えられます。

3.聴聞の場に弁護士は同席させる

聴聞の通知が来たということは、取消処分をするという内部的な方針決定がなされたということです。
こうした、「心証の開示」は、監査の最終日の講評で明らかにされることもあるので、録音しておくと良いと思います。
聴聞手続は、行政手続法に基づく手続です。行政庁が一定の不利益処分をしようとする際に実施しなければならない手続です。
本件でいえば、①保険医療機関の指定の取消し、②保険医の登録の取消しを行う際には、行う必要があります。

  • 担当官が取消処分の正当性を聴聞の場で説明をします。
  • これに対して、歯科医師側が意見陳述・反論を行います。
  • そして、聴聞の主宰者として、裁判官的に双方の主張などをチェックし、懲戒処分を行って良いかを確認、検討する手続をします。

ポイントとしては、新しい事実が出てくるか、などがあるかもしれません。
もっとも、聴聞が開始された時期においては、既に「有罪の推定」が働いていますので、覆すハードルは非常に高くなります。
しかし、担当官や特別指導課長などは、消化試合のように考えていて、手続の公正さも蔑ろにしていることもあります。聴聞に参加する歯科医師としては、弁護士を代理させるのをおすすめします。その後の取消訴訟も視野に入ってくるからです。

この点は、納得できないところは、しっかり主張しておくべきです。聴聞で主張が認められず、取消処分がなされた場合に、裁判でその処分を争うことができます。
まずは、自分の立場を聴聞で主張することが重要です。なお、聴聞は1回で終わることが多いといえます。

4.保険医療機関の指定が取り消されると・・・

保険医療機関の指定の取消しがなされると、生活保護法の指定も取り消されます。つまり、関連した処分にも対応する必要があります。
保険医療機関ではなくなったことが指定の取消事由に当たるからです。
また、保険医の登録の取消から通常1年以上経過してから、その歯科医師個人に対して、医道審査会の手続が始まります。
一例を挙げると、診療報酬不正請求による歯科医業停止3か月の行政処分が見込まれます。
個別指導の実施通知書では、通例として、指導対象患者について、個別指導の1週間の20名分を送達し、個別指導の前日に残りの10名分をファックスで知らせるとありますが、どのようなカルテが指定されるかが問題となります。
この点、カルテについては、通常の高得点数による個別指導であれば
指導実施日の半年程度前の連続して2カ月間高得点数になっているカルテが指定されることになります。
原則として、30名分のカルテは、その歯科医院の診療の特性を反映しつつ、協会けんぽ、市町村国保、後期高齢からバランスよく選ばれています。

5.取消処分への不服の申立ては可能か?

保険医療機関の指定の取消しについては、①厚生労働大臣に対する審査請求、②裁判所に対する処分取消しの訴えがあります。一般的には、裁判所に対して取消訴訟を提起することが多いのではないか、と思います。

しかし、不服を申し立てても、保険診療は続けられません。「公定力」といって、裁判を提起し勝訴判決をしない限りは有効として取り扱われてしまいます。

可能性は高くありませんが、取消訴訟を裁判所に提起して、あわせて、裁判所に執行停止の申立てをすることが考えられます。あくまで、裁判所が執行停止を認めると、裁判で最終的な結論を得るまで保険診療ができることになります。

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