薬剤師に対する行政処分や懲戒処分について

薬剤師が犯罪行為や不正行為をすると、業務停止や免許取消しなどの厳しい行政処分を受けるリスクが発生します。

いったん薬剤師免許を取り消されると再取得が難しくなるケースも多いので、問題が生じたらすぐに適切に対処しなければなりません。

今回は名古屋で医療労務に積極的に取り組んでいる弁護士が、薬剤師に対する行政処分や懲戒処分の内容、不利益を避けるための対処方法をお伝えします。

暴行や性犯罪、薬歴未記載などの不祥事を起こしてしまった薬剤師の方はぜひ参考にしてみてください。

1.薬剤師に対する行政処分の種類

薬剤師が不正行為や犯罪行為をしてしまったときに適用される可能性のある行政処分は以下の3つです。

戒告

問題のある薬剤師に対して厳重注意が行われる処分です。薬剤師としての業務活動や免許に直接の影響はありません。行政処分の中でももっとも軽いものです。

3年以内の業務の停止

重大な問題を起こすと、3年以内の期間を区切って業務停止処分が行われます。業務停止期間中は薬剤師としての仕事ができません。

免許の取消し

薬剤師免許を取り消される行政処分です。免許が失われるので薬剤師としての仕事は一切できなくなります。

2.行政処分が行われた実例紹介

具体的にどういった問題行動をすると業務停止や免許取り消しなどの行政処分が行われるのか、実例をいくつかみてみましょう。

2-1.調剤過誤で6か月の業務停止

調剤過誤を起こして6か月の業務停止になった事例があります。
処方せんには「リズミック(アメジニウムメチル硫酸塩)錠」と記載されていたにもかかわらず、薬剤師が間違って「グリミクロン(グリクラジド)錠」を調剤し、患者は低血糖による昏睡状態に陥り救急搬送され、1か月後に亡くなりました。

刑事事件としても問題となり、薬剤師は「業務上過失傷害罪」で有罪判決が確定し、罰金50万円が科されました(略式命令)。

2-2.医薬品の横領で3年の業務停止

薬剤師が勤務先に備置されていた医薬品を数回にわたって横領し続けて3年間の業務停止処分を受けたケースです。
横領目的は売却利益を得るためでした。
薬剤師にあるまじき行為なので、3年間の業務停止という厳しい処分がくだされています。

2-3.違法な薬物販売で免許取消し

薬剤師が300回以上にわたって向精神薬を違法に販売して利益を得て免許取消処分を受けた事例です。
薬剤師にあるまじき犯罪行為(旧薬事法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反)であり、経時的にも懲役3年、執行猶予5年の判決が出ています。

極めて悪質なので免許取消し処分となりました。

2-4.薬剤師の行政処分でよくあるパターン

上記以外にも、性犯罪や暴行、傷害などの粗暴犯、詐欺や窃盗などの財産犯、悪質な交通事故などを起こして業務停止や免許取消し処分を受けるケースがよくあります。

薬剤師の方は、くれぐれも刑事事件を起こさないよう注意しましょう。

3.行政処分を決定する医道審議会

薬剤師が問題行動を起こしたときに行政処分を決定するのは「医道審議会」です。
医道審査会における審査基準は明確に示されていませんが、一般的には以下の2点を考慮して処分が決まります。

3-1.刑事事件の判決内容

刑事処分がくだされた場合には刑罰の種類や量刑、執行猶予がついたかどうかなどが重要です。判決が重ければ行政処分も重くなる傾向があります。

3-2.薬剤師倫理に反するかどうか

以下のような場合には薬剤師倫理に反する行為として、責任が重くなります。

  • 薬剤師が業務を行うにあたって当然に負うべき義務(処方せん応需義務、処方せんに基づく適正な調剤、必要な医師等への疑義照会、薬剤交付時の情報提供、薬剤服用歴への真実の記載等)を果たしていない
  • 薬剤師業務を行う機会を利用、あるいは薬剤師としての身分を利用して不正行為を行った
  • 人の生命・身体を軽んずる行為をした
  • 薬剤師業務を通じて、自己の利潤を不正に追及する行為をした

医道審議会に事案が持ち込まれたら、早期に対応を開始しなければなりません。
弁明の根拠を検討し、自己に有利になる資料を集めて提出しましょう。

お1人では適切に対応するのが難しいので、手続きに精通した弁護士へ相談するのが得策です。

4.薬剤師の再教育制度

薬剤師が業務停止などの行政処分を受けると、「再教育」を受けなければなりません。
いったん免許取消し処分を受けた後に再取得するためにも再教育を受ける必要があります。

再教育の内容

再教育の内容は、行政処分を受けた理由や行動内容の悪質さの程度、行政処分の種類により、適切な教育内容は異なります。

よくあるのは社会奉仕活動や集団研修、精神の鍛錬、講座の受講や実習などです。

5.再免許を取得できる条件

いったん行政処分によって免許を取り消されても、一定条件を満たせば再取得可能です。

  • 免許取消し事由に該当しなくなったとき
  • 免許を再取得させるのが適当と認められたとき

ただし免許取消し後は欠格期間があり、5年が経過するまでは免許の再取得ができません。

6.薬剤師の欠格事由

薬剤師には「欠格事由」があり、該当すると免許を取得できません。

薬剤師免許を取得できない人

  • 未成年者、成年被後見人や被保佐人

また以下に該当すると、免許を取得できない可能性があります(薬剤師法5条)。

  • 心身の障害により薬剤師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
  • 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
  • 罰金以上の刑に処せられた者
  • 前号に該当する者を除くほか、薬事に関し犯罪又は不正の行為があつた者

薬剤師免許取消し後に再取得しようとしたとき「罰金以上の刑に処せられたもの」「薬事に関し犯罪や不正行為があった」とされると免許を取得できないリスクが高くなります。

刑事事件になったら不起訴処分を目指すなど、罰金以上の刑罰を避ける対処が必要となるでしょう。すぐに刑事事件に詳しい弁護士へ相談すべきです。

7.薬剤師が行政処分を受けないために注意すべきこと

薬剤師が業務停止や免許取り消しなどの行政処分を避けるため、以下の点に注意して行動しましょう。

7-1.コンプライアンスを守る

まずは薬剤師倫理を守りましょう。
たとえば薬機法違反や麻向法違反には非常に厳しい処分を科されます。
調剤報酬の不正請求も薬剤師としてあるまじき行為なので、厳しく処分されるでしょう。

薬剤師としての自覚を持ち、コンプライアンスを遵守した行動をとるべきです。

7-2.調剤過誤に注意

故意でなくても、調剤過誤によって業務停止などの厳しい行政処分を受けるケースが少なくありません。
忙しいお店で働いている方や疲れている方などは過誤を起こしやすいので注意が必要です。
特に高リスクの医薬品を調剤するときには慎重に対応しましょう。

ダブルチェック体制を構築するなどして、ミスを防ぐべきです。

7-3.犯罪行為をしない

当然のことですが、犯罪行為をしてはなりません。
たとえば暴行や傷害、性犯罪などによって行政処分を受けるケースもあります。
交通事故でも悪質な場合には行政処分の対象になるので注意しなければなりません。

8.職場における懲戒処分について

薬剤師が問題行動を起こすと、勤務先の職場でも懲戒処分を受ける可能性があります。
懲戒処分とは、問題行動を起こした従業員に対し、雇用主が与えるペナルティです。
以下のような種類があります。

8-1.戒告

問題行動をとった従業員に厳重注意する処分です。

8-2.減給

給与を減額する処分です。ただし労働基準法により減額できる限度が定められています。

8-3.出勤停止

一定期間出勤を禁止する処分です。出勤停止中は給料が支払われません。

8-4.降格

現状の役職や地位を下げられる処分です。

8-5.諭旨解雇

懲戒解雇前に自主的な退職を促す処分です。懲戒解雇すると退職金が不支給となったり解雇予告手当が支給されなかったりしますし、失業保険に関する扱いも変わってくるので、その前に退職の機会を与えます。

8-6.懲戒解雇

もっとも重い懲戒処分で、対象者を解雇します。

職場での懲戒処分は「職場内の処分」なので、懲戒解雇されても他の店舗や病院で働くのは自由です。ただ行政処分も同時に受けると仕事ができなくなる可能性がありますし、前の職場で懲戒処分を受けたと知られたら、再就職が難しくなるでしょう。

また懲戒処分が重すぎる場合には不当な処分として争える可能性もあります。
懲戒解雇された場合でも、必ずしも退職金が全額不支給になるとは限りません。
疑問があれば弁護士までご相談ください。

名古屋駅ヒラソル法律事務所では、医師や薬剤師などの医療者への法的サポートに力を入れています。犯罪行為をしてしまった、不正に手を染めてしまった、調剤過誤を起こしてしまったなど、お悩みの薬剤師の方がおられましたらすぐにでもご相談ください。
また,近年,チーム医療や在宅医療が推進されるなかで,薬剤師の置かれている立場が変化し,今まで以上にさまざまな業務を行う場面や,専門的な判断が求められる場面が増えてきています。薬剤師にとっては,専門知識や職能を活かすことができ,患者にとっては適切に医薬品が使用できるようになります。他方で,薬局や薬剤師の責任は,問われる場面が増えていくと考えられます。平成23年2月10日の東京地裁判決では,薬剤師に対して損害賠償の支払を命じる判決がなされました。医師の誤った処方により薬剤が過量投与され,患者が死亡した事件です。こうした薬剤過量事件で個々の薬剤師が訴えられることはこれまでにはありませんでしたが,この判決を契機に,薬剤師が薬の責任者であるという側面は強くなったのではないかと思います。 
こうした薬剤師に対する責任追及についても,行政処分に発展しないように,対応することが重要です。
薬局にとっては,調剤過誤を起こさないことが最も重要ですが,起こってしまった場合の対応も重要となります。対応を誤ってしまったために大きな紛争になることがありますが,その背景には,適切に弁護士に相談していなかったことが挙げられます。
例えば,誤投薬をしてしまったケースで考えてみると,患者自身が,気が付き服用前に交換したような場合,患者側には損害はありません。ところが,薬剤師に落ち度があるため,安易に患者に金銭を支払ってしまったり,さらなる不当な要求につながったりすることもあります。
こうしたケースでも,薬剤師の法的なお悩み事は,名古屋駅ヒラソル法律事務所にご相談ください。
事例についてはこちらの記事を参照させていただきました。

名古屋市の弁護士による医療従事者の労働問題と
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