保健師・看護師・助産師の行政処分や懲戒処分について

保健師や看護師,助産師の方が悪質な交通事故を起こしたり薬物所持や使用などの犯罪行為をしたりすると,「医道審議会」によって審議が行われ,業務停止などの行政処分を受ける可能性があります。

最悪の場合,免許を取り消されてまったく仕事ができなくなってしまうリスクも発生します。医療に携わる立場の方は,不正や犯罪行為をしないようくれぐれも注意しなければなりません。

本稿では保健師や看護師,助産師に対する行政処分の種類や問題になってしまったときの対処方法について,弁護士がお伝えします。

1.行政処分とは

不正や犯罪行為をした保健師,看護師,助産師には「行政処分」が適用される可能性があります。
行政処分とは,看護師や保健師などが罰金以上の刑に処せられたり不正をはたらいたりしたときに,厚生労働大臣によって業務停止が命じられたり免許を取り消されたりする「ペナルティ」の制度です。

看護師や保健師,助産師は医療に携わる立場として重い責任を負っています。それにもかかわらず医療者としてあるまじき行為をすると,国としても放置するわけにはいきません。
そこで問題行動の内容や程度に応じて行政処分を適用し,ペナルティを与えるとともに問題行動の予防もはかっているのです。

行政処分には以下の3種類があります。

1-1.戒告

問題行動をした看護師や保健師,助産師に対して厳重注意する行政処分です。注意されるだけで資格に対する影響はありません。もっとも軽い行政処分といえるでしょう。

1-2.業務停止

一定期間看護師や保健師,助産師としての業務ができなくなる行政処分です。期間はケースによって異なり,数か月~数年となるケースが多数です。ただし上限は3年とされており,3年を超える業務停止処分はありません。
3年を超えて業務停止させるべきような重大な事案は,次に紹介する「免許取消」を適用すべき,という考えにもとづきます。

1-3.免許取消

看護師や保健師,助産師の免許を取り消すもっとも重い行政処分です。
欠格期間がもうけられるため,その期間中は免許の再取得もできません。
また欠格期間が明けても必ず再取得できるとは限らず,拒否される可能性もあります。

2.行政処分の対象となるケース

看護師や保健師,助産師が行政処分の対象になるのは以下のようなケースです。

2-1.保健師助産師看護師法,医師法などの違反

看護師や保健師,助産師は「保健師助産師看護師法」に従って適正に業務を行わねばなりません。もちろん医師法に反する行為も禁止されます。
人の心身の安全や国民の健康な生活を守るはずの看護師などが上記のような重要な法律を守らず国民の健康や生活を危険にさらす責任は大きいでしょう。

こういった医療関係の法律に違反する行為があると,重い行政処分が課される可能性が高くなります。

2-2.薬物事犯

麻薬及び向精神薬取締法違反や覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反などの薬物犯罪をしてしまった場合にも,厳重に処罰される可能性が高まります。
看護師や助産師,保健師は医療者として一般の人以上に麻薬などによる害の大きさを理解している立場です。それにもかかわらず違法行為を行った責任は重いと考えられるからです。
また看護師が勝手に薬物を使用して看護業務を行うと,国民の健康に多大なリスクが発生してしまうことも,重く処分される理由となります。

2-3.殺人や傷害

人の命や体を守る役目を負う看護師や保健師,助産師が殺人や傷害事件を起こすと,厳しく処分されます。特に殺人を犯したら基本的に免許取消の処分が下されます。

2-4.交通事故(業務上過失致死傷)

交通事故を起こしたら,けが人を救護しなければなりません(救護義務)。警察への通報も義務付けられています。
人の健康や命を救う仕事である看護師や助産師,保健師が適切に救護義務を果たさず警察への通報もしなかった場合,重い行政処分が課されるケースが多数です。

2-5.危険運転致死傷

危険運転致死傷とは,故意にも匹敵するほど悪質な危険運転によって交通事故を起こしたときの犯罪です。
人の生命や身体を守る医療者である保健師や看護師,助産師が危険運転致死傷事件を起こすと,当然責任が重くなります。

2-6.医療過誤(業務上過失致死傷)

医療過誤も行政処分の対象ですが,具体的な事情によって処分内容が異なります。
たとえば故意や明らかな過失による場合,繰り返し行われた場合などには責任が重くなるでしょう。処分に際しては病院やクリニックの管理体制,他の医療者の人数や注意義務違反の程度なども考慮して決定されます。
法的責任が発生するには,その要件の一つに「過失」があります。看護業務における過失とは,看護師が負っている注意義務に違反することをいいます。一般的には,①危険な結果の発生を予見する義務,②危険な結果の発生を回避する義務の2つがあるといわれています。
したがって,危険な結果の発生が予見できたのに,危険な結果の発生を回避する措置をとらなかった場合などに過失があると判断されることになります。そして,看護水準は,事故当時において,平均的な看護職に一般的に知られ,かつ,認められている臨床看護における看護知識と技術とされています。
実際の裁判においては,過失の有無は,看護記録などをもとに判断されます。過失があれば,必ず法的な責任が問われるとは限りませんが,法的責任の一つの要件となっています。
また再犯の場合,看護師や助産師,保健師などとして適性を欠くのではないか特に慎重に検討されるでしょう。

2-7.わいせつ行為(性犯罪)

わいせつ行為は比較的厳しく処分されます。特に看護師や保健師などの立場を利用してわいせつ犯罪をした場合には責任が重くなると考えましょう。
強姦・強制わいせつなどの重大事件を起こせば当然厳しい処分を下されます。

2-8.詐欺・窃盗

詐欺や窃盗などの財産犯も処分対象です。特に患者の財産を盗むなど,患者を裏切る行為は許されません。看護師や保健師,助産師としての立場を利用した場合にも厳しく処分されると考えましょう。

2-9.診療報酬や介護報酬の不正請求

診療報酬や介護報酬の不正請求も行政処分の対象になります。悪質性が高ければ,その分処分も重くなると考えましょう。

3.看護師が免許取り消し,業務停止となった事例

実際に看護師が行政処分を受けて免許取消となった事案をご紹介します。
2022年1月31日,保健師助産師看護師法にもとづいて,厚生労働省が刑事事件で有罪が確定するなどした看護師など13人に行政処分を適用しました。5人が免許取消,8人が業務停止1か月~6か月となりました。
たとえば公然わいせつ罪で有罪が確定した浦添市の看護師(44)は業務停止6か月となっています。
参考 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/903538

4.行政処分者に対する再教育制度

2008年4月1日から,行政処分を受けた看護師や助産師,保健師への「再教育制度」が始まりました。
具体的な再教育の内容は,適用された行政処分によっても異なります。たとえば戒告の場合,1日の集合研修が行われる程度です。一方業務停止2年以上の場合,集合研修の日数は2日となってさらに120時間の個別研修を受けなければなりません。

5.医道審議会による審議

看護師や助産師,保健師に行政処分が適用される場合,「医道審議会」において審議が行われます。
医道審議会とは,医師や薬剤師,看護師などの医療者への行政処分を審議する専門機関です。行政処分を適用するかどうか,具体的にどういった処分とするかは医道審議会において決定されます。

医道審議会で審議が開始されたら,できるだけ処分を軽くしてもらうために早期に対応を開始すべきです。ご自身では十分な対応が難しいでしょう。不利益を最小限にとどめるためにも,すぐにでも弁護士までご相談ください。

6.職場における懲戒処分について

看護師や助産師,保健師が犯罪行為をすると,職場における懲戒処分を受ける可能性もあります。
懲戒処分とは,雇用者が被用者へ適用するペナルティです。以下のような種類があります。

  • 戒告
  • 減給
  • 出勤停止
  • 降格
  • 諭旨解雇
  • 懲戒解雇

もっとも重い処分は懲戒解雇で,処分を受ければ職場を去らねばなりません。

ただ懲戒処分となっても「その職場内で不利益を受ける」だけであり,他の職場への影響は基本的にありません。たとえば懲戒解雇されても他のクリニックや病院へは転職できます。
業務停止や免許取消の場合,どの職場でも看護師や助産師,保健師などの仕事が一切できなくなるので,インパクトが大きく異なるといえるでしょう。

なお職場における懲戒処分が問題行動に対して重すぎる場合,無効と主張して争うことも可能です。懲戒解雇されると退職金が支給されないケースが多数ですが,必ずしも全額不支給にできるとは限りません。
職場での懲戒処分に疑問がある場合,お早めに弁護士までご相談ください。

6.看護師,助産師,保健師の行政処分や懲戒処分は弁護士へ相談を

医療関係の対応は専門的な分野なので,対応していない弁護士やノウハウが整っていない弁護士も少なくありません。不利益を最小限にとどめるため,できる限り専門性を持った弁護士に依頼しましょう。

名古屋駅ヒラソル法律事務所では,看護師や保健師,助産師などの医療者の方々への支援体制を整えています。交通事故や医療過誤,性犯罪などが問題となって行政処分や懲戒処分が心配な医療者の方は,お早めにご相談ください。

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