医師、クリニックが注意すべき「個別指導」「監査」「聴聞」への対処方法

病院や歯科クリニック、医師、薬剤師などの医療関係者が「健康保険」を適用するには、保険医療機関として指定を受け、あるいは保険医や保険薬剤師などとして登録しなければなりません。

一定の不正行為や著しい不当行為をすると、保険医療機関としての指定や保険医登録を取り消される可能性があります。

その前提として行われる手続きが「個別指導」や「監査」「聴聞」の手続きです。

今回は個別指導と監査の違いや取消処分を避けるための対処方法について弁護士が解説します。
保険診療を行っている医療関係者やクリニックの事務長などの方はぜひ参考にしてみてください。

1.保険医療機関や保険医登録の取消処分とは

一般的に、ほとんどの病院は「保険医療機関」として指定を受けているものです。歯科クリニックも同様でしょう。薬局の場合には「保険薬局」となります。医師なら「保険医」、薬剤師なら「保険薬剤師」として登録している方が大多数です。

このように「保険医療機関」として指定を受けたり「保険医」として登録したりしなければ、健康保険を使った診療ができません。ところが保険に関して不正行為があると、地方厚生局によって取り消されてしまう可能性があります。いったん取消処分を受けると、5年間は再指定を受けたり再登録したりできません。

保険が使えないとほとんどの患者は来ないでしょうから、保険の指定や登録を取り消されると医師や薬剤師、病院経営者の方にとっては死活問題となります。ときには自己破産を余儀なくされる方もいるので、くれぐれも注意しなければなりません。

保険医療機関や保険医登録の取り消し処分について、詳しくはこちらの記事にまとめているのでご参照ください。

2.個別指導と監査

保険医療機関としての指定や保険医登録の取消処分を適用されるのは「個別指導」や「監査」の対象となった場合です。

2-1.個別指導とは

個別指導は不正や著しい不当行為が行われている可能性があるときなどに地方厚生局が調査を行い指導する手続きです。結果として取消処分となる可能性もありますが、調査の結果問題がない場合、特に処分はありません。

2-2.監査とは

監査とは、不正や著しい不当行為がお行われている可能性が濃厚な場合に、地方厚生局が調査や聴聞の手続きを行い、処分するかどうかを決める手続きです。
個別指導が行われるケースよりも不正や不当行為の可能性が高く、当初から取消処分などの行政処分を前提とするケースが多数です。
個別指導だけであれば取消処分を免れる可能性もありますが、監査対象となったら取消処分のリスクが大きく高まっていると考えるべきです。

3.個別指導の種類

個別指導には「集団的個別指導」「通常の個別指導」「新規個別指導」の3種類があります。

3-1.集団的個別指導

集団的個別指導は、レセプト1件あたりの平均点数が高い医療機関を対象として行われる個別指導です。集団で2時間程度の講習が実施されます。
指導日に診療録を持参する必要はなく、結果として診療報酬の自主返還を求められることもありません。

ただし集団的個別指導を理由なく拒否すると、通常の個別指導が行われる可能性があります。

3-2.通常の個別指導

退職した元従業員などの第三者による通報があって具体的に不正が行われている可能性がある場合や、レセプトの点数が高い状態が継続している場合などに行われる個別指導です。
指導日の1か月前に通知があり、おおむね直近6か月間のレセプトのうち連続した2か月分が審査されます。
指導日には指定されたレセプトや診療録を持参しなければなりません。
結果として不正、不当行為が確認されると1年分まで遡って診療報酬の返還を求められる可能性があります。

また通常の個別指導を行っている際に不正や著しい不当行為が明らかになると「監査」に移行するケースもあります。

3-3.通常の個別指導の結果

通常の個別指導が行われると、以下の4種類のうちいずれかの結論が出ます。

概ね妥当

レセプト請求が概ね妥当で特に問題点がみあたらない場合です。

経過観察

今すぐ行政処分が必要な状態ではないので、引き続いて状況を観察していくべきとする判断です。

再指導

あらためて個別指導を必要とされる判断です。

要監査

個別指導の結果、より厳しい監査の手続きが必要とされる判断です。要監査となると取消処分を受けるリスクが大きく高まるので、そういった結果にならないよう慎重に対応しなければなりません。

3-4.通常の個別指導と集団的個別指導の違い

通常の個別指導では、集団的個別指導よりも取消処分を受ける可能性が高くなります。ですので、事前に弁護士に相談しておくのも一つでしょう。
そもそも集団的個別指導は2時間程度講習を受ければ終わるのに対し、通常の個別指導では診療録を確認されて具体的な調査が行われる点でも違いがあります。

また集団的個別指導が通常の個別指導へつながるケースもよくあります。当初は集団的個別指導の対象になっただけで取消処分を受けずに済んでも、その後も継続して高い点数を出し続けていると通常の個別指導の対象になりやすいのです。

集団的個別指導を拒否すると通常の個別指導の対象になりやすいので、正当な理由なく集団的個別指導を拒否すべきではありません。

3-5.新規個別指導

新規個別指導は、開業後6か月程度経過した保険医療機関を対象に行われる個別指導です。
指導時間は約1時間です。
指導日の1か月前に通知があり、指定された期間のレセプトや診療録を持参しなければなりません。
新規個別指導の結果は通常の個別指導と同様、「概ね妥当」「経過観察」「再指導」「要監査」の4種類に分類されます。

要監査となると、新規個別指導から監査へ移行して取消処分が適用される可能性も高くなってしまいます。新規開業者を対象としているとはいえ、いきなり厳しい処分を受けてしまうケースもあるので、慎重に対応しましょう。

4.監査の流れ

監査は以下のような流れで実施されます。

4-1.患者に対する調査

監査手続きが開始されると、調査日以前に「患者への調査」が行われます。
対象のクリニックや医師のもとで保険診療を受けた患者に対し、地方厚生局から連絡が入り、自宅などで直接ヒアリングを行う手続きです。
患者へのヒアリングについては対象医療機関に知らされないので、対象医療機関が関与することはできません。
また患者が対象の医療機関に監査が入っている事実に気づき、噂を広めるなどしてクリニックへ風評被害が生じる可能性もあります。

患者に対する調査の結果は「受診状況調査書」という書類にまとめられ、調査後の聴聞手続きの際に開示請求できます。

4-2.レセプトと診療録の突き合わせ

地方厚生局にて、レセプトと診療録の突き合わせによる調査が行われます。両者に不一致の部分がないか、確認される手続きです。

4-3.対象者からの聴取

対象となった保険医療機関や保険医からの弁明を受け付けるために聞き取り調査を実施します。
主張すべき事項があれば、この機会にしっかり説明しなければなりません。不備不足があると取消処分を受けやすくなるので、場合によっては弁護士と打ち合わせのうえ、事前に綿密な準備を行って対応しましょう。

ただご自身ではどういった対処が最善か判断しにくい方が多数です。困ったときには医療機関への行政処分に精通している弁護士へ対応を依頼しましょう。

4-4.患者個別調書、聴取調書などの作成

調査や聴聞が終了すると、地方厚生局が患者個別調書や聴取調書などの書面をまとめます。
患者個別調書とは、患者ごとに診療の年月日や不正不当とされた診療報酬請求の金額、内容などを記載する書類です。対象者による弁明を書き入れる欄もあり、最終的に本人が内容を確認して署名押印して完成させます。

患者個別調書の内容は、監査の決定を下す際に非常に重視されます。
言いたいことがあれば弁明欄にきちんと書き入れるべきですし、内容に不満があれば署名押印すべきではありません。
ただ保険医や開業者による弁明欄は非常に小さいので、紙面が不足するケースも多々あります。枠外や裏面などに記載しましょう。

なお患者個別調書以外の書面として「聴取調書」も作成され、聴取を行った際の問答内容などが記載されます。

4-5.決定

以上のような調査や結果にもとづいて、地方厚生局が対象医療機関に対する処分を決定します。決定内容は戒告、注意、取消処分の3種類です。

監査対象となると、おおむね半数のケースで取消処分が選択されています。

3-5.監査における地方厚生局の権限

監査の際、地方厚生局には「質問検査権」が認められます。質問検査権とは、監査対象となった保険医療機関や保険医などに対し、診療録や帳簿書類の提出を求めたり病院設備、診療録や帳簿書類の調査をしたりできる権限です。対象者に対し、出頭を求めたり、質問をしたりする権利も含まれます。

質問検査権は刑事事件の捜査ではないので、強制ではありません。ただし拒否すると指定や登録の取消処分を受ける可能性があるかもしれません。

医療機関や薬局、医師などの方にとって、監査への協力は事実上強制されているともいえるでしょう。

4.聴聞とは

監査に対応する際に注意しなければならないのが聴聞手続きです。
聴聞とは、監査の結果取消処分などの行政処分が適当と考えられるときに、処分予定者に対して弁解の機会を与える手続きです。
聴聞が行われる場合には、期日までに書面で以下の内容が通知されます。

  • 不利益処分の内容や根拠法令
  • 不利益処分が行われる原因となった事実
  • 聴聞の日時と場所
  • 聴聞担当の組織や所在地

聴聞に出席義務はありませんが、出席せず書面も提出しない場合、不利益な決定がでる可能性が極めて高くなるでしょう。与えられた防御の機会を最大限活かすため、必ず聴聞には出席して取消処分を避けるため最善を尽くすべきです。この時点でも、弁護士に相談した方が良いでしょう。

5.聴聞への対処方法

聴聞を受ける際には、事前に患者個別調書等の内容をしっかり確認し、間違いがないかチェックしましょう。
不正不当とされた事項について意見がある場合、口頭だけではなく、弁護士と相談のうえ、「意見書」にまとめるようおすすめします。資料もあれば用意して、合わせて提出しましょう。

ただご自身で対応すると、説得的な意見書を作成するのは困難と感じる方が多数です。お困りの際には医療機関の行政処分に力を入れている弁護士へ対応を依頼しましょう。

名古屋駅ヒラソル法律事務所でも医療関係者に対する法的支援に力を入れていますので、地方厚生局による個別指導や監査の対象となってしまった場合にはお早めにご相談ください。

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