医師や歯科医師の労務問題
~医道審議会の行政処分と病院の懲戒処分について~

医師や歯科医師の方が事件や事故を起こすと、医道審議会で審議にかけられて業務停止となったり、最悪の場合には免許を取り消されたりする可能性もあります。
病院に勤めている場合は病院からの懲戒処分があり、公務員にも懲戒処分の制度が適用されます。

交通事故や暴行、性犯罪などの刑事事件を起こした場合や医療ミスをしてしまった場合などには不利益を避けるため、早期に適切な対応をとるべきです。

今回は医師や歯科医師が不正行為や問題行動をしてしまった場合の行政処分や懲戒処分について弁護士が解説します。事件や事故を起こして不安になっている方は、ぜひ参考にしてみてください。

1.医師や歯科医師が問題行動をした場合のペナルティ

医師や歯科医師であっても、ときには犯罪行為をしてしまったり医療過誤を起こしてしまったりするものです。
「免許を取り消されるのではないか?仕事ができなくなるのでは?」と不安を抱える方も多いでしょう。

実際の医師や歯科医師の行動が問題になると、以下のような処分を受ける可能性があります。

  • 医道審議会による審査と行政処分
  • 病院からの懲戒処分
  • 国や自治体による懲戒処分

医道審議会による審査や行政処分はすべての医師や歯科医師に適用されます。
病院からの懲戒処分は、民間の医療法人や個人経営の病院、クリニックへ勤めている方に適用されるものです。
国や自治体による懲戒処分は、国立病院や市立病院などの公的な病院に勤めている「公務員」に適用されます。
以下でそれぞれの処分について、個別にみてみましょう。

2.医道審議会による審査と行政処分について

医師や歯科医師の方が問題行動をすると、医道審議会による行政指導や行政処分を受ける可能性があります。
医療審議会とは、犯罪行為、不正行為をしたり医療過誤を起こしたりした医療関係者に対する行政措置を取り決める審議会です。医師や歯科医師に対する処分を決定します。

2-1.処分の種類

医師や歯科医師が医道審議会の対象となると、以下のような指導や処分を受ける可能性があります。

厳重注意問題行動に対して厳重に注意されるもので、行政指導の一環です。
戒告問題行動に対して戒めるために厳しく申し渡しをするもので、厳重注意よりも重い行政処分です。
3年以内の医業停止
・歯科医業停止
定められた一定期間、医師や歯科医師の業務ができなくなります。
免許取消もっとも重い行政処分で、医師や歯科医師の免許が取り消されます。
欠格期間中は免許の再取得も認められません。

2-2.処分の基準

医道審議会における審議内容は原則として非公開なので、具体的にどういった行為をしたらどのような処分を受けるのか、明確な基準は示されていません。
ただし一定の傾向はあるので、以下でお知らせします。

犯罪行為の判決が重いと処分も重くなる

刑事処分の量刑が重い場合、処分も重くなる傾向があります。
懲役刑や禁固刑になった場合、執行猶予がついたかどうかも考慮されます。
実刑になると医道審議会でも重い処分がくだされる可能性が高いでしょう。

医師や歯科医師の倫理に反すると重くなる

医師や歯科医師に求められる倫理に背く行為があると、処分が重くなる傾向があります。たとえば以下のような場合です。

  • 医師や歯科医師の義務を果たさなかった(応招義務や診療録に事実を記載する義務など)
  • 医師や歯科医師としての身分や立場を利用して犯罪行為に及んだ
  • 生命や身体を軽んずる行為をした
  • 不正な方法で自己の利益を追及した

2-3.医師免許の再取得について

いったん医師や歯科医師の免許を取り消されても、欠格期間をすぎれば再取得を申請できます。
ただし以下のいずれかに該当する場合、免許が与えられない可能性があります。

  • 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができないとして厚生労働省令で定めるもの
  • 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
  • 罰金以上の刑に処せられた者
  • 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者

罰金以上の刑は、罰金と懲役、禁錮と死刑です。これらの刑を科された場合や医師法などの医療関係法に違反した場合、免許の再交付を拒否されるリスクが高くなると考えられます。

医師や歯科医師の方が刑事事件の被疑者となったら、資格を守るためにも有罪判決を回避することが極めて重要です。できるだけ早めに医師や歯科医師の処分に精通していて刑事弁護にも力を入れている弁護士へ相談しましょう。
名古屋の当事務所でも医師や歯科医師の方への支援体制を整えていますので、お困りの方はお早めにご相談ください。

3.病院からの懲戒処分について

民間病院やクリニックへ勤務している医師や歯科医師の場合、問題行動を起こすと勤務先の就業規則に従って「懲戒処分」を受ける可能性があります。
懲戒処分とは、問題行動を起こした労働者に対して雇用主がペナルティを与えるための処分です。就業規則に懲戒に関する規定を置いている場合において、懲戒処分を適用できます。

懲戒には以下のような種類があり、問題行動の程度が重くなると処分内容も重くなっていきます。

3-1.戒告

問題行動を注意する処分です。

3-2.減給

給与から一定金額を減額する処分です。ただし労働基準法によって減額できる限度が決まっているので、それを超えて減給されると違法になります。

3-3.出勤停止

一定期間病院への出勤を禁止される処分です。出勤停止中の給与は支給されません。

3-4.降格

現在の地位から降格される処分です。

3-5.諭旨解雇

懲戒解雇前に本人に自主的に退職を促す処分です。懲戒解雇すると退職金が支給されなくなるなどの不利益があるので、懲戒解雇前により穏便な方法として、諭旨解雇を行うケースがよくあります。

3-6.懲戒解雇

もっとも重い懲戒処分で、対象の従業員を解雇する処分です。
懲戒解雇されると、解雇予告手当の支給を受けられなかったり退職金の一部や全部が支給されなかったりするケースが多々あります。
ただし必ずではなく、懲戒解雇でも解雇予告手当や退職金を請求できる可能性もあるので、疑問がある場合には弁護士へご相談ください。

4.公務員の懲戒処分について

国立病院や公立病院に勤務している医師や歯科医師の場合、公務員に対する懲戒制度が適用される可能性があります。
公務員に適用される懲戒処分は以下の4種類です。

4-1.戒告

問題行動について厳重注意される処分です。

4-2.減給

給与のうち一部を減額される処分です。

4-3.停職

一定期間、仕事ができなくなる処分です。

4-4.免職

公務員としての職を解かれる処分です。公務員が免職になった場合、2年間は公務員としての再就職はできません。

4-5.退職金について

公務員が免職になると、退職金の一部や全部が支給されません。

4-6.行政処分と懲戒処分の違い

医道審議会における行政処分と勤務先の病院による懲戒処分や公務員に対する懲戒処分は何が違うでしょうか?

一番の違いは、医道審議会の行政処分を受けると「あらゆる病院で医師や歯科医師の仕事ができなくなる」可能性のある点です。
たとえば医道審議会で「業務停止」となれば、期間中はどこの病院でも仕事ができません。「免許取消」になれば、欠格期間中はそもそも医師や歯科医師ではなくなりますし、免許を再取得できなければ一生医師や歯科医師として働けないのです。
一方、勤務先の病院で懲戒処分されただけであれば、他の病院で働ける可能性があります。公務員が懲戒免職された場合、再び公務員になるのは困難なケースが多数ですが、民間病院であれば再就職できる可能性もあるでしょう。

医師や歯科医師の方にとっては、医道審議会における行政処分の方が、勤務先における懲戒処分よりインパクトが大きくなると考えられます。

いずれにせよ、犯罪行為や不正行為を行って行政処分や懲戒処分を受けると、信用を失い大きな不利益を受けます。再就職しようにも、応募先の病院に知られると採用されにくくなるでしょう。刑事事件になった場合や不正を疑われたり医療ミスが問題になったりした場合、早めに適切な対応をすべきです。
ご自身では適正な対処方法を判断しがたいでしょうから、医師や歯科医師の労務問題や刑事事件に詳しい弁護士に相談し、対応を協議するようお勧めします。

5.名古屋駅ヒラソル法律事務所は医師、歯科医師をバックアップします

名古屋駅ヒラソル法律事務所では、医師や歯科医師など医療関係者への法的支援に力を入れております。通常の労働関係における懲戒処分だけでなく、医道審議会における行政処分手続きについても詳しい知識と対応スキルをもっているため、いざというときに頼りにしていただけるでしょう。残業代請求や解雇などのトラブルにも対処可能です。名古屋や東海地方で交通事故を起こしたり犯罪行為を疑われたりして不安なお気持ちになっている医師や歯科医師の方がおられましたら、お早めにご相談ください。

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