開業医が「3年以内の医業停止処分」を受けた場合の対処方法

医師や歯科医師が刑事事件を起こすなどして「3年以内の医業停止処分」を受けてしまったら、自分では医業を続けられなくなってしまいます。

開業して経営している方にとっては死活問題となるため、適切な対処方法を押さえておきましょう。
具体的には代替医師を依頼するか廃業するかなど、いくつかの選択肢があります。

今回は開業医や開業歯科医師の方が「3年以内の医業停止」処分を受けてしまった場合の対処方法を、医師の労務問題に積極的に取り組んでいる弁護士が解説します。

行政処分を受けてしまった医師の方はぜひ参考にしてみてください。

1.3年以内の医業停止処分の効果

3年以内の医業停止とは、刑事事件を起こしたり不正行為をしたりした医師や歯科医師が、医業を継続できなくなる処分です。
たとえば暴行罪や性犯罪となる行為をしたり交通事故を起こしたりして罰金以上の刑罰が確定すると、3年以内の医業停止となる可能性があります。
保険の不正請求によって処分を受ける方も多いので、くれぐれもそういった行為をしないよう注意しましょう。

なお医業停止の期間は「3年以内」です。3年を超える医業停止が相当な場合には「免許取消」となります。

医業停止になると、医師や歯科医師としての仕事が一切できなくなります。
勤務医であればその期間仕事を休めば良いですが、開業医の場合には数か月や数年にもわたって閉院し続けるわけにもいかないでしょう。

医業停止に対する対策方法を検討する必要があります。

2.医業停止中の対処方法

医師や歯科医師の医業停止中には、以下の対応方法があります。

  • 異議申し立てをする
  • 代替医師に対応を依頼する
  • 休業する
  • 事業承継を検討する
  • 廃業する

それぞれについてみていきましょう。

3.異議申し立てをする

行政処分に対する異議申し立てや取消訴訟を提起する方法です。
異議申し立てとは、行政処分を行った厚生労働省に対して再審査を求める手続きをいいます。取消訴訟は医業停止処分の取消を裁判所へ求める方法です。
異議申し立てや取消訴訟が通れば、医業停止処分の効果はなくなって医業を再開できます。

ただし異議申し立てや取消訴訟を提起しても、医業停止処分が失効するわけではありません。仕事ができない状態のまま手続きを進めなければならないので、対策方法としては不十分といえるでしょう。
また医業停止期間が数か月などの短期の場合、異議申し立て等の手続きをしている間に医業停止期間が終わってしまう可能性も高くなります。

異議申し立てが有効となるのは、1年以上の長期の医業停止になった場合などに限定されるといえるでしょう。

信用を回復する効果はある

開業医が医業停止処分を受けると世間的な信用が失われるので、クリニックに来る患者さんも離れてしまうリスクが発生します。
異議申し立てや取消訴訟で医業停止処分が取り消されたら、信用を回復する効果は期待できます。

医師や歯科医師としての信用を重視する方の場合、たとえ医業停止が短い期間であっても異議申し立てや取消処分を行う価値があるといえるでしょう。

4.代替医師に対応を依頼する

医業停止処分を受けると、ご本人が医業を行えなくなってしまいます。
勤務医や勤務歯科医師がいればそちらに任せれば良いのですが、お1人で経営なさっている場合には医業停止期間中、クリニック運営するのが難しくなるでしょう。
営業を継続するには、代わりに患者さんを診察してくれる代替医師を探さねばなりません。

4-1.早めに採用活動(採用活動というかは別として)を行う

代替医師を探すには、採用活動のような行為を行わねばなりません。実際は,「居抜き」のような形で,医業をしてくれる人を探すのが現実的と思います。
ただ、医業停止になっている方の代替医師を探すのは困難も予想されます。
また,株式会社や医師でない者が,病院を経営することは極めて制限されているので,注意が必要です。
具体的には,①間接的な病院経営への参加,②医療法人方式(ただし,自治体の許可をとることは難しいと考えられる。),③一般社団法人方式(ただし,このやり方が認められるかは地域差も大きいといわれています。),④資金繰りの問題-などもあるため,親族などに代替医師になってもらうか,事業承継するのも一つの選択肢かもしれません。
医業停止処分を受けたら、停止期間が始まるまで数週間程度の猶予しかないのが一般的です。その間にご自身で診察しながら代替医師を探すのは簡単ではないでしょう。

採用的な活動は、早めに開始するのが得策です。できれば行政処分の結果が出る前から、良い人がいないか探しはじめましょう。

4-2.代替医師と契約を締結する方法

代替医師が見つかったら、契約を締結しなければなりません。
医師や歯科医師の方は勤務医や勤務歯科医師との間で一定の契約書を作成するのが望ましいといえるでしょう。
しかし書面化しなければ、契約内容がはっきりせず将来のトラブルのもととなってしまいます。
特に業務停止中の代替医師の場合、ご本人が仕事に復帰されたときには契約を打ち切る可能性も多く、契約期間が短くなるケースがよくあります。

代替医師が見つかった場合には、契約期間や更新、期間後の継続の可能性などについてもよく話し合い、お互いに納得できる条件を定めて,業法に照らしても適正な契約書を作成しましょう。

5.休業する

代替医師が見つからない場合や雇う余裕がない場合などには、業務停止中にクリニックを休業するのも一つです。
ただし賃貸物件の場合、休業中もテナント代などの費用はかかってしまうでしょう。医療機器のローン返済をしている方も多数おられます。休業した方が経済的といえるのか、事前にシミュレーションをしておくべきです。

また休業すると、患者さんが離れてしまうリスクも発生します。
業務停止期間が3か月程度など短期であれば、休業しても大きな影響は及びにくいと考えられますが、半年以上などの長期になるようであれば、休業は現実的でないケースも多々あります。

6.事業承継を検討する

ご本人の年齢や状況にもよりますが、業務停止を機に事業承継を検討するのも一つの選択肢となります。
つまりクリニックを誰か他の有資格者へ引き継いでもらいのです。
たとえご本人が高齢になっていて自分1人では診療所経営の継続が負担になってきていた場合などには、廃業を検討するのもよいでしょう。

また行政処分にともない、「開設許可の取消」「閉鎖命令」が出てしまった場合にも病院経営を継続できません。
他者へ引き継いでもらうか廃業する必要があります。
開設許可の取り消しや閉鎖命令については、次の項目で詳しくご説明します。

6-1.M&Aを検討する

「事業承継:というと「子どもに病院を承継させる」ものと考える方も多いのですが、後継者は子どもとは限りません。
他の医師や医療法人に引き継いでもらえるケースもよくあります。いわゆる「M&A」です。

M&Aに成功すると、経営者には高額なキャッシュが入ってきますし、病院を残せてスタッフなどの従業員の雇用も引き継がれるメリットもあります。

子どもがクリニックを継いでくれない場合には、ぜひともM&Aを検討してみてください。

6-2.事業承継M&Aの進め方

事業承継M&Aを行うときには、まずは引き継ぎ手を探さねばなりません。
伝手を頼ったり紹介を受けたり、場合によっては医療専門のM&A仲介業者に相談したりしてみましょう。
新経営者候補が見つかった場合、M&Aの条件交渉を進めます。
価額や従業員の引き継ぎ、病院名の引き継ぎなど、お互いが納得できる条件を設定しましょう。

M&Aではデューデリジェンスへの対応や契約書作成などにも対応しなければならず、非常に複雑な手続きですし、1人で対応すると不利になる可能性も高まります。
早い段階から弁護士に相談しながら進めましょう。

6-3.行政手続きが必要

クリニックを引き継ぐ際には、旧クリニックの廃止手続きや新しいクリニックの開設手続きなど、各種の行政手続きが必要となるケースもよくあります。

非常に手間がかかりますし、ご自身だけでは手に余ることも多いでしょう。
行政手続きについては医療の労務問題に詳しい弁護士へ相談し、任せるとスムーズに進みます。

6-4.クリニックの開設者の医師免許について

病院やクリニックの経営は、医師や歯科医師資格のないものでもできます。
ただし営利目的で医師や歯科医師の資格をもたないものが開業しようとすると、都道府県知事が許可を出さない可能性があるので、できれば資格を持つ人へ病院経営を引き継いでもらうのがよいでしょう。

また病院やクリニックでは、医師や歯科医師を「管理者」としておかねばならないとも定められています(医療法10条)。
開設者本人に医師や歯科医師の資格があれば、原則的に自分が管理者になります。他の人に管理させて良いのは、都道府県知事の許可を得た場合のみとされています。

つまり病院を他の医師や歯科医師に引き継いでもらって病院経営を続ける場合には、基本的に引き継ぎ手の医師に管理者になってもらう必要があります。

7.廃業する

M&Aの相手先も見つからないなど病院経営をどうしても継続できない場合、「廃業」も視野に入れて検討しなければなりません。

廃業の際には従業員との雇用契約解消、賃貸借契約の解約、備品の処分などさまざまな事項に対応する必要があります。
対応に迷ったときには弁護士へ相談しましょう。

開設許可の取消、閉鎖命令とは

行政処分にともない、開設許可の取り消しや閉鎖命令が出るケースもあります。
開設許可の取消とは、都道府県知事により病院の開設許可が取り消されることです。
閉鎖命令は、都道府県知事によって病院の閉鎖を命じられることをいいます。

医師法により「開設者に犯罪又は医事に関する不正の行為があつたとき」には、「病院、診療所若しくは助産所の開設の許可を取り消し、又は開設者に対し、期間を定めて、その閉鎖を命ずることができるのです(医師法29条1項)。

開設許可の取消や閉鎖処分を受けると、診療所の経営を継続できません。別の人へ引き継いでもらうか廃業を選択する必要があります。

なお業務停止の行政処分を行うのは厚生労働大臣ですが、開設許可の取消や閉鎖命令を出すのは都道不県知事です。

『開設許可の取消』や「閉鎖命令」が下される場合、ご本人に弁明や聴聞が行われます。
不利な判断を避けるため、弁護士に依頼して当初から適切な対応を進めましょう。

医業停止処分を受けたら弁護士へ相談を

3年以内の医業停止処分を受けると、診療行為をしばらくできなくなってしまいます。
選択肢はいくつかありますが、最適な対処方法は、対象者のおかれた状況によっても大きく変わってくるでしょう。
不利益を回避するには、医療者の労務問題に詳しい弁護士へ早めに相談するのが得策です。

名古屋駅ヒラソル法律事務所では、医師や歯科医師への行政処分対策に力を入れています。お困りの医師や歯科医師の方は気軽にご相談ください。

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