取消処分後,再免許付与申請をしたい医療者の方へ

刑事事件を起こしたり悪質な不正行為を行ったりすると,行政処分によって医師や歯科医師の免許が取り消されるケースがあります。

医道審議会で医師免許や歯科医師免許が取り消されると,もはや医師や歯科医師としてはたらくことができません。

その場合でも「再免許付与申請」をすれば,免許を再度取得できる可能性があります。

今回は免許の取り消し処分後に再免許付与申請が認められる条件や申請方法をお伝えします。

行政処分で免許取り消しとなってしまった医師や歯科医師の方はぜひ参考にしてみてください。

1.再免許が与えられると医業を再開できる

行政処分で免許取消処分を受けると,医師や歯科医師,看護師や薬剤師などの医療者としての資格を失います。業務停止と異なり免許自体がなくなるので,医療者としての仕事は一切できません。

ただしいったんは行政処分で免許が取り消されても「再交付」を受けると医業を復活できます。

免許の再交付を受けるには,再免許申請をして審査に通らねばなりません。一定要件を満たした上で,免許の再交付を認めてもらう必要があります。

2.免許再交付の要件

医師法や歯科医師法では,再免許を取得できるケースについて,以下のように定められています(医師法7条2項・歯科医師法7条2項)。

「その者がその取消しの理由となった事項に該当しなくなったとき,その他その後の事情により再び免許を与えるのが適当であると認められるに至つたときに免許を与えることができる。」

つまり,以下のいずれかに該当すれば免許の再交付を受けられる可能性があるといえるでしょう。

  1. 対象者が「免許取消の理由となった事項」に該当しなくなった
  2. 免許取消後,事情によって「再び免許を与えるのが適当」と認められる状態になった

ただし再免許事由のうち②の「再免許を与えるのが適当と認められる」の場合には欠格期間が定められています。具体的には取消処分から最低5年が経過していないと再免許取得できません。

3.「取消しの理由となった事項」とは

上記①の要件によって医師や歯科医師が免許の再交付を受けるには「取消の理由となった事項」に該当しなくなったことが必要です。

取消の理由となる事項を具体的にいうと,以下のとおりです。

  1. 未成年者,成年被後見人または被保佐人
    18歳以下の未成年者,認知症などにかかって後見人や保佐人のついている人は再免許交付を受けられません。
  2. 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者
    上記以外でも,心身の障害があって医業が適切にできない状態と判断されると再免許交付は受けられません。
  3. 麻薬,大麻又はあへんの中毒者
    薬物中毒の方は免許の再交付を受けられないと考えるべきです。
  4. 罰金以上の刑に処せられた者
    過去に罰金以上の刑罰に処せられた場合,最低でも5年が経過しなければ免許の再交付を受けられません。(免許の取消しになった場合で,再取得する場合のケースのことを述べています。)
  5. 医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者
    医業に関する犯罪が不正行為を行うと,最低でも5年が経過しなければ免許を再取得できません。
  6. 医師・歯科医師としての品位を損するような行為のあった者
    上記以外でも医師や歯科医師としての品位を落とす行動をとると,最低でも5年を経過しなければ医師や歯科医師の免許を再取得できません。

上記のうち①から③については期間制限がなく,理由となった状況がなくなるとすぐに再免許取得できる可能性があります。
一方④から⑥については,再免許の要件として「処分の日から起算して5年を経過」していなければ再免許を受けられません。この5年の期間を「待機期間」といいます。

医師の再免許|待機期間一覧表
免許取消の理由待機期間
被後見人・被保佐人となったなし
心身の障害により医師の業務を適正に行うことができないなし
麻薬・大麻・あへんの中毒者となったなし
罰金以上の刑に処せられた5年
医事に関し,犯罪or不正行為があった5年
医師・歯科医師としての『品位を損するような行為』があった5年

待機期間の起算点

5年の待機期間については「処分の日」からカウントを開始します。

4.「罰金以上の刑に処せられた者」として免許取消処分を受けた場合

医師や歯科医師が免許を取り消されるのは,多くのケースにおいて「罰金以上の刑に処せられた者」となった場合です。

罰金以上の刑とは以下の4つです。

  • 罰金刑
  • 禁固刑
  • 懲役刑
  • 死刑

上記の刑罰が「取消しの理由となった事項に該当しなくなった」状態になるためには,原因となった罰金以上の刑にが「消滅事由」に該当していなければなりません。

刑罰の消滅事由は以下のとおりです。

  • 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したとき
    禁錮や懲役刑となった人が執行を終え,あるいは執行を免除してもらってから罰金以上の刑罰を受けずに10年経過したときです。
  • 罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したとき
    罰金刑を受け支払いをした場合や免除してもらった場合,その後5年間罰金以上の刑罰を受けなかったら刑が消滅します。
  • 刑の免除の言渡しを受けた者が,その言渡しが確定した後,罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したとき
    刑罰を免除されて確定した場合,罰金以上の刑罰を受けずに5年が経過したら刑が消滅します。
  • 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したとき
    懲役や禁錮などの執行猶予を受けた場合,執行猶予を取り消されないまま猶予期間を無事にすぎれば刑が消滅します。

なお上記のような刑の消滅事由があっても,必ず再免許を受けられるわけではありません。別途「処分の日から起算して5年を経過」という待機期間の要件も満たす必要があります。

いったん刑事事件となって罰金以上の刑罰を受けてしまうと,その後に医師や歯科医師の免許を再取得するために相当な期間がかかるでしょう。

5.処分庁(厚生労働大臣)の裁量権について

医師や歯科医師の方が再免許を取得できる要件を満たして待機期間を過ぎたとしても,必ず再免許を交付してもらえるとは限りません。

処分庁である厚生労働大臣には,再免許を与えるかどうかの裁量権が認められるからです。
裁量とは,具体的な事情に応じて処分庁自身が是非を判断できることです。厚生労働大臣の裁量により,再免許の要件を満たしていても「免許再交付が相当でない」と判断されれば免許は受けられません。
条文上も「再免許を与えることができる。」とされており,再免許を与えなければならないとは書かれていないのです。

過去に取消処分を受けた医師や歯科医師の場合,再免許交付申請の際に「再免許を取得できる要件を満たした」と主張するだけでは足りません。
厚生労働大臣に対し,再免許を交付すべき積極的な理由をしっかり説明する必要があります。

6.再免許を受けるために大切なこと

取消処分を受けた医師や歯科医師が免許の再取得を受けるために重要なのは,以下のような対応です。

6-1.再交付の要件を満たすことを確認する

まずは免許の再交付の要件を満たすかどうか,きちんと確認しましょう。
特に「待機期間」のある取消事由に該当する場合,期間の計算を正確に行わねばなりません。
間違って申請してしまっても,要件を満たしていなければ再交付は認められません。
ご自身では正確に期間計算するのが難しければ,弁護士までご相談ください。

6-2.良い事情をしっかり主張する

免許の再交付を受けるには,厚生労働大臣の裁量によって「再交付が相当」と判断してもらわねばなりません。
単に「再取得の要件を満たしている」と主張するだけでは「再交付は不相当」と判断されてしまうおそれがあります。
裁量によって再交付が相当と判断してもらうため,積極的に自分にとって良い事情を説明しましょう。
どういった事情を主張するのが相当かは,個別事情によって異なります。
たとえばもともとの取消事由となった刑事裁判が悪質ではないこと,しっかり反省して更生していること,医師や歯科医師としてのスキルが高く社会的な必要性があること,かつて医業に熱心に取り組んでいたことなど,さまざまな主張内容が考えられるでしょう。

また再交付が適切である事情については,できるだけ裏付け資料も用意すべきです。
集めた資料は申請の際に添付しましょう。

6-3.弁護士に相談する

医師免許の再免許申請を認めてもらう際,厚生労働大臣に広い裁量が認められるので実質的には「再免許の付与を受けることが適切」といえるだけの事情の主張がポイントとなってきます。
再免許申請の際,良い事情について適切に主張し資料も添付できないと,再交付は認められにくくなってしまうでしょう。

ただ,お1人ではどういったご主張ができるのか,どのような資料が有効か判断するのは簡単ではありません。専門知識をもった弁護士へ相談するのが得策です。

弁護士であれば,事案の内容ごとに効果的な主張方法や集めるべき資料についてアドバイスができます。書類作成や提出などの手続きを弁護士に任せれば間がかかりませんし,スムーズに手続きを進められるメリットもあります。

ただし免許の再交付申請は弁護士業務の中でも専門的な手続きであり,すべての弁護士が対応しているわけではありません。できるだけ医療者の支援に積極的に取り組んでいる弁護士を選びましょう。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では,医療者の労働問題や行政処分対策に力を入れています。
免許の取り消し処分後,再交付をご検討の医療者の方がおられましたら,親身になって対応いたしますのでお気軽にご相談ください。

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