行政処分に納得がいかないときの対処方法
医道審議会で業務停止や免許取消処分を受けても「納得できない」と感じる医師や歯科医師の方が少なくありません。
行政処分を受け入れたくない場合には,異議申し立てする方法があります。
それは「審査請求」や「取消訴訟」です。
審査請求と取消訴訟は審査機関や審査方法も異なるので,審査請求が認められなくても取消訴訟で判断が変更される可能性が十分にあります。
また審査請求や取消訴訟にはそれぞれ期間制限もあるので,正しい知識をもって対応しましょう。
今回は行政処分に納得できない場合の対処方法をお伝えします。
業務停止や取消処分となってお困りの医師や看護師,歯科医師,薬剤師などの医療職の方はぜひ参考にしてみてください。
1.行政処分を争う方法
医療者にとって,医道審議会における決定や行政処分は非常に重大な影響を及ぼすものです。特に業務停止や取消処分となると,仕事を続けられなくなるので人生に対する影響も多大になるでしょう。
行政処分に納得できないときには異議を申し立てて判断を変更してもらえる可能性があります。具体的な方法は「審査請求」と「取消訴訟」の2種類です。
1-1.審査請求
審査請求は行政処分の判断を行った行政庁自身に対し,再度の審査を求める異議申し立て方法です。
医療者への行政処分は厚生労働省が行うので,審査請求を担当するのも厚生労働省です。
1度目に説明できなかった事柄や提出できなかった資料などを提示すると,同じ厚生労働省の判断であっても変更される可能性がないとはいえません。審査請求では,「不当な決定」も裁決の対象になるのに対して,司法では,「違法」である場合しか審理の対象になりません。もっとも,裁判所と異なり,同じ厚生労働省の判断であるため,変更される見込みが高くはないといえるかもしれません。
1-2.取消訴訟
取消訴訟は一種の裁判です。
訴える先は裁判所であり,厚生労働省ではありません。
処分を行った行政庁とは異なる司法機関が判断するので,審査請求がとおらなくても取消訴訟で判断を変えてもらえる可能性があります。
以下で審査請求や取消訴訟,それぞれの違いについてより詳しくみていきましょう。
2.審査請求
2-1.審査請求とは
審査請求とは,行政庁の処分や公権力の行使に当たる行為に不服を持つ者が,その行政庁に対して不服を申し立てて違法性や不当性を再審査させ,訂正や取消を請求する手続きです。ポイントは違法性のみならず,不当性も審理の対象になるということです。
医師や歯科医師などの医療職への業務停止命令や免許取り消しの決定も行政処分の一種なので,審査請求の対象になります。
2-2.審査請求の手続き
審査請求の宛先は,処分を行った行政庁である厚生労働省です。
書面で申し立てる必要があり口頭での審査請求は受け付けられないので注意しましょう。
また審査請求を行う医師や歯科医師などの人を「審査請求人」といいます。
審査請求で判断を変更してもらうため,提出書面には,1度目の決定内容が違法,不当であることを説得的に書かねばなりません。追加の資料があれば積極的に提出しましょう。
また審査を担当するのが1度目と同じ機関なので,同じ主張を繰り返しても判断は変更されない可能性が高くなります。異議を認めてもらうには工夫が必要となるでしょう。
2-3.審査請求の流れ
審理員の指定
審査請求をすると,厚生労働大臣が審理員を指名します。
審理員として選任されるのは,1度目の医業停止などの行政処分決定に関与していない人です。
弁明書の提出と反論
審査請求人側が審査請求書を提出すると,受け取った処分庁側が反論書面として弁明書を提出します。
弁明書は審査請求人に送られてくるので,内容をみて反論書を提出しましょう。
意見の聴取
複雑なケースでは審理を計画的に進めるため,審理員の判断で「意見の聴取」が行われる可能性があります。意見の聴取とは,審査請求人や処分庁から証拠書類の提出を受けたり口頭で意見陳述してもらったりすることに関する意見を聞く手続きです。
意見の聴取を行う際,審理員は期日や場所,日及や終結予定時期を決めて,審査請求人や処分庁へ通知します。
審理の終結
必要な審理が終わったら,審理員は速やかに意見書を作成し,処分庁へと送付します。この意見書を「審理員意見書」といいます。
厚生労働省はほとんどのケースで審理員の意見書に従った決定を行うので,審理員意見書に何を書かれるかは審査請求人にとって非常に重要です。
審査請求に対する決定
審理員意見書が提出されると,厚生労働大臣は速やかに決定を下します。この決定を「裁決」といいます。
審査請求人による請求に理由があって処分を変更すべきケースでは,処分の全部または一部を取り消して変更する裁決が下されます。
一方,請求内容に理由がないと判断されると,棄却する裁決が行われます。棄却された場合,行政処分は変更されません。
2-4.審査請求の期限
業務停止や取消処分などの行政処分に対する審査請求には期限があります。
「処分があったことを知った日の翌日から3か月以内」に審査請求書を提出しなければなりません。
遅れると審査請求できなくなってしまいますので,処分に納得できなければ早めに準備を進めて手続きを行いましょう。
2-5.審査中の行政処分の効力について
審査請求を行って行政処分の効力を争っても,行政処分自体は停止されません。
業務停止や免許取消によって仕事ができなくなってしまいます。
もしも審査請求の手続き中も行政処分の効力を停止させたければ「執行停止の申立て」という別の手続きをしなければなりません。
執行停止の申し立てが認められるには,行政処分を止めるべき理由を説得的に説明する必要があります。ご自身では適切に対処するのが難しいケースが多いので,早めに弁護士までご相談ください。
なお審理中,必要があれば審理員が厚生労働大臣へ「執行停止をすべき」とする意見書を提出してくれる可能性もあります。その意見書が認容されるともともとの行政処分の効力が停止されます。
3.取消訴訟
次に取消訴訟についてみてみましょう。
取消処分とは,裁判所へ対し行政処分等の取消しを求める訴訟です。
審査請求とは異なり,判断するのは裁判所です。異なる機関が異なる視点から判断するので,審査請求が認められなかった場合でも取消訴訟は認められる可能性があります。
3-1.取消訴訟の手続きの流れ
提訴
取消訴訟は一種の裁判なので,手続きを行う際には管轄の裁判所へ訴状を提出しなければなりません。
訴状には,行政処分変更すべき理由を法的な視点から説得的に記載する必要があります。
法律の要件を満たさないと判断を変更してもらえません。
提訴の際には証拠提出もできるので,これまでの経緯や行政庁の判断における違法,不当性を示す資料を積極的に提出しましょう。
口頭弁論や弁論準備期日
訴状を提出したら,行政庁宛に訴状等の書類が送付されます。その後,行政庁からは「答弁書」が提出され,第1回口頭弁論期日を迎えます。
1回では裁判は集結しないので,通常は弁論準備期日に付されて主張や証拠の整理を行います。必要に応じて当事者尋問や証人尋問を行い,すべての証拠や主張が出揃ったら口頭弁論が終結します。
判決言渡し
口頭弁論が終結すると,約1~2か月後に判決が言い渡されます。
判決において,行政処分が違法で「取り消すべき」と判断されると原告である医師や歯科医師などの主張が認められます。その場合,もともとの行政処分が取り消され,処分内容が変更されます。
一方,行政処分が適法でないと判断されると原告の主張は棄却されてしまいます。その場合,業務停止や取消処分などの行政処分に影響はありません。
3-2.取消訴訟の期間
業務停止や免許取り消しなどの行政処分に対する取消訴訟にも期限があります。
「処分があったことを知った日から6か月以内」に提訴しなければなりません。
処分に不服があって裁判を起こしたい場合,早めに弁護士へ相談して準備を進めましょう。
3-3.取消訴訟中の行政処分の効力について
取消訴訟を提起しても,業務停止や取消処分などの行政処分の効力が止まりません。
判決で請求が認容されるまで,仕事ができない状態が続いてしまいます。
訴訟中も仕事を行いたい場合には,「執行停止の申立て」をして認容される必要があります。
手続内では,仕事を続けなければならない必要性などを説得的に説明しましょう。お1人で対応すると認められにくくなってしまうので,手続きを行うなら弁護士へ依頼するようおすすめします。
4.審査請求と取消訴訟との違い
審査請求と取消訴訟には大きな違いがあります。
4-1.判断する機関の違い
両者の根本的な違いは,判断する機関です。
審査請求の場合には,処分した行政庁そのものやその上級庁が審査を行います。
同じ行政庁が判断するので,審査の公正性があるのか疑問を持たれることもあり,1度目と同じ主張をしてもとおらない可能性が高くなります。
一方取消訴訟を担当するのは司法機関である裁判所です。
裁判所は行政庁から独立した立場から法律にもとづいて判断するので,判断の公正さが保たれやすいといえるでしょう。
4-2.手続の複雑さ
審査請求は,比較的手続きが簡単です。審査請求書さえ提出すれば審理を進めてもらえて結果を出してもらえて,期間も長くはかかりません。
ただし実際には詳細な主張をしないと判断が変更されにくいことは既述しました。
一方,取消訴訟は一種の裁判であり手続きが非常に重厚で複雑です。医療者の方がお1人で進めるのは難しいでしょう。また処分の不当性は判断の対象とならず,違法性のみが対象になります。
行政処分に不服がある場合,審査請求と取消訴訟のどちらの手続きも選択できます。どちらを選ぶかは請求者の自由なので,状況に応じて選びましょう。
5.行政処分への不服申立ては弁護士へご相談を
行政処分に対する不服申立てを行うとき,素人判断してしまう認容されないリスクが高まります。
手続きが比較的簡単な審査請求であっても,適切に活動しないと認容される可能性は低くなるでしょう。まして取消訴訟となると,法律の素人が行うのはリスクにしかなりません。
医療者の行政処分に対応するには,医師や歯科医師,看護師などの労働問題に長けた弁護士に相談するのが得策です。名古屋駅ヒラソル法律事務所では医療職の労働問題への支援に力を入れていますので,お困りの医師や歯科医師などの方がおられましたらお早めにご相談ください。